三尋木咏・回顧録覚書-6- 「三尋木咏の母親」

Date:2019年6月17日(月)

1 山に行って、次に目が覚めたのは病院だった。

 崖から落ちた私は奇跡的に一命を取り留めたものの、一ヶ月ほど目を覚まさなかったらしい。

 目を覚ました時にはいなかったけど、直ぐにお父さんも仕事放り出して飛んできてくれたみたいだった。お父さん泣いてんの見たのはあれ以来ないなぁ。ちょっと引くぐらい泣いてた。

 何よりビックリしたのは、母親が泣いてたことかな。

 私を抱きしめて「ごめんね、ごめんね」って言い続けてた。お母さんは、「咏が急に走りだして、慌ててそれを止めようと思ったけど止めれず崖から落ちてしまった」などと『説明』してくれた。

 まだ目覚めたばかりの私は戸惑いつつ、「ああ、そうだった気がする」と考えることにした。

 だって、ついこの間――私にとっては昨日まで優しかった母親が、急に背中押して私を殺しにかかるとか考えられるわけないよ。私は自分が考えたことを無視し、母親の『説明』が真実だと思い込んだ。思い込むことにした。

 まあ、その二日後に人の気配感じて目を覚ますと点滴に細工している母親の姿を見てしまったんだけどね。馬鹿な私は呑気に「ママ、何してるの」とか言っちゃってねー。

 その後はもう修羅場だったなー。母親に首を締められてまた殺されかけて、「アンタがいるからあのひとは私のことを愛してくれない」とかわめいている母親の声を聞いてやってきた看護師さん達が取り押さえてくれたおかげで、何とか死なずには済んだ。

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