三尋木咏・回顧録覚書-12- 「三尋木咏、恐怖する」

Date:2019年6月17日(月)

2 解説の仕事抜けだした私は家に帰ることにした。

 家と言っても生まれ育った三尋木家ではなく、プロになって新しく買ったマンションに。プロになってからは家を出て一人暮らしするようになったから。

 当時の私は未成年。そういった物件買うなら親権者の同意必要なんだけど、昔のことを引きずってお父さんとかなり険悪(私が一方的に嫌ってただけだけど)で、「なんであんなやつを頼らないといけないんだ」と思った結果、結構グレーな手段使ったので本ではちょっとその辺をボカして書いておかないと。

 まあ、その辺のことは大して重要じゃない。

 仕事放り出して家に帰ってきた私は、部屋に篭ってダラダラと本とか読んでたと思う。

 そうしていたら小腹空いてきたので――というか夕食の時間をとうに過ぎていたので冷蔵庫を漁ったものの、冷蔵庫には何も無く、仕方なく近所のコンビニに行くことにした。

 あの頃は主に外食したり出前取ったりしつつ、弁当とか冷凍食品とか買ってきてたなぁ。

 ゴミは袋に入れるだけで放置して、部屋掃除もろくにせずに「たまに掃除屋呼んで掃除してもらえばいいや」なんてことを考えていた。いまの私が当時の食生活と部屋の状況見たら卒倒しそうなぐらい自堕落な生活を送っていたねぇ。

 私はコンビニの袋を下げ、呑気にふらふらと自宅のマンションまで帰ってきた。そしてオートロックの扉を開けて中に入ろうとすると……するりと、誰かが一緒に入ってきた。

 同じマンションの住人かな? と思い、チラリと視線を向けると、そこには背の高い女性が立っていた。私より大分年上で、若いころは大層美人だったのだろう――という女性だった。年とっても十分美人の部類ではあったんだけど。

 私はその人の背の高さを妬みつつ視線を逸らそうとしたんだけど、なぜかその女性はニッコリ笑って私のことを見下ろしていた。

 はて、知り合いにこんな人いたっけ?

 なんて考えていると、その人は「先ほどはどーも」なんて声をかけてきた。

 その日、私と一緒に実況室に入っていたアナウンサーだった。

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